UNCITRAL 調停規則 (2021)
高校生向けのやさしい解説
国際的な商売でもめごとが起きたとき、裁判でも仲裁でもない「第三者に入ってもらって、話し合いでお互い納得する」方法を調停と呼びます。この規則は、その調停を世界中で同じ手順でできるようにまとめた国連の共通ルールブック。強制ではなく、当事者が「使おう」と合意したときだけ適用される、柔らかいけれど頼りになる手引きです。
概要
国際連合国際商取引法委員会(United Nations Commission on International Trade Law, UNCITRAL)が第54会期(2021年)で採択し、国連総会が第76会期(2021年12月9日、決議76/108)で承認した国際商事紛争の調停(mediation)に関する統一手続規則。1980年に同委員会が採択した「UNCITRAL Conciliation Rules」を置き換え、それ以降の国際商事紛争解決手法の発展を反映する。全13条と附属書(モデル調停条項、モデル情報開示宣言、モデル受諾宣言)から構成される。調停は 拘束力を持たない第三者援助型の紛争解決 であり、本規則は当事者の合意に基づいてのみ適用される任意規則として設計されている。
主要概念
調停の定義(第1条)
「調停」とは、当事者が紛争の友好的解決を試みるにあたり、第三者(「調停者」)の援助を求める手続を指す。本規則は「mediation」「conciliation」その他類似の意味の用語で呼ばれるかを問わず適用される。調停者は当事者に解決を強制する権限を持たない。この非強制性が仲裁(arbitration)との本質的な違いを構成する。
任意性と合意主義
規則は当事者間の合意があった場合にのみ適用され、当事者はいつでも規則の任意の条項を変更・除外できる(第1条4項)。強行法規との抵触時は強行法規が優先する(第1条5項)。調停の開始も、当事者の調停参加合意の日に開始したとみなされる(第2条1項)。
調停者の中立性と独立性(第3条)
- 原則として調停者は1名。複数の場合は共同で行動する。
- 調停者候補者は選任前および調停進行中を通じて、公正性・独立性に疑義を生じさせる可能性のある一切の事情を当事者に開示しなければならない。
- 国籍の異なる当事者間では、第三国国籍の調停者選任が推奨される。
- 地理的多様性・性別が候補者選定において考慮される。
調停の進行(第4条)
当事者は調停の進行方法について合意できる。合意がない場合、調停者は事情・当事者の希望・迅速な解決の必要性を考慮して進行方法を決定する。調停者は 公正な取扱いの義務 を負い、必要に応じて技術的手段(リモート会議等)を用いることができる。
秘密保持(第6条、第7条)
- 第6条(Confidentiality): 調停に関するすべての情報(和解合意書を含む)は、法律上の要求または第8条4項に基づく場合を除き、関与者全員が秘密として保持する。
- 第7条(Introduction of evidence in other proceedings): 調停中に示された見解・提案・譲歩・合意受諾の意思等は、後続する仲裁・訴訟・その他の紛争解決手続において証拠として援用できない。これは調停参加者に 率直な意見表明の保護 を与え、調停の実効性を高める中核的規定。
和解合意(第8条)
当事者が紛争の全部または一部について和解条件に合意したときは、和解合意書を作成・署名すべきである。電子通信による署名も、当事者の本人性と意思を示す信頼できる方法が用いられれば有効と認められる。署名により和解合意書は、調停の結果であることの証拠として、適用法の下で救済を求めるために援用できるものとなる(Singapore Convention on Mediation との接続を意図した規定)。
調停の終了(第9条)
調停は以下のいずれかにより終了する: (a) 和解合意書への署名, (b) 当事者の終了宣言, (c) 一方当事者の終了宣言, (d) 調停者の継続不能宣言, (e) 費用未払いによる宣言, (f) 強制期間の満了または合意。
仲裁・訴訟との関係(第10条、第12条)
調停は仲裁・訴訟と並行または先行して行うことができ、並行開始自体は調停合意の放棄ではない。調停者は同一紛争の仲裁人・代理人・証人となることが禁止される(第12条)—これは調停中に得た秘密情報の後続手続への流出を防ぐ構造的保護。
費用と責任免除(第11条、第13条)
費用は当事者間で合理的に分担され、調停者は事前に預託を要求できる。故意による不法行為を除き、調停者の作為・不作為に基づく一切の請求は放棄される(免責条項)。
関連
- 創造(creation-space): 紛争解決の「縁」(対立が合意へ転ずる境界)を制度的に設計する枠組み。創造の5段階モデル における「縁」の制度的実装例。
- シンガポール調停条約: 2018年採択の国際条約で、本規則第8条と整合する国際的な和解合意書の執行可能性を担保する。
- Ostrom: Governing the Commons: 共有資源管理における自発的紛争解決制度の理論的基盤として接続。
- PD 文脈: 信頼における「制度的信頼」の具体例。対立を排除せず、対立の生産的変換を可能にする制度設計として 抱持 の社会的実装と見ることもできる(ただし比喩の域)。
書誌情報
- 著者: United Nations Commission on International Trade Law (UNCITRAL)
- 年: 2021
- 出典: United Nations(Vienna, 2022 publication)
- access_status: raw-confirmed
- 公式URL: UNCITRAL Mediation Rules 2021
- 備考: uncitral.un.org 公式 PDF から手動 DL(manifest notes)