名古屋議定書

高校生向けのやさしい解説

ある国の植物から薬を作って大きく儲けた製薬会社が、その国には何も還元しないとしたら、フェアだと思いますか? 名古屋議定書は、生き物の遺伝資源(DNAや種子など)を使うとき、それが由来する国や先住民のコミュニティにきちんと許可を求め、利益を分かち合うよう求める国際ルールです。2010年に名古屋で採択されました。

概要

「遺伝資源へのアクセスとその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」(Nagoya Protocol on Access to Genetic Resources and the Fair and Equitable Sharing of Benefits Arising from their Utilization to the Convention on Biological Diversity)。2010年10月29日、愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約(CBD)第10回締約国会議(COP10)において採択された。2014年10月12日発効。生物多様性条約の三目的の一つである「遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分」を実施するための具体的な法的枠組みを提供する。本書は議定書の全文とABSクリアリングハウスに関する補足書を収録する2018年版である。

主要概念

ABS(Access and Benefit-sharing: アクセスと利益配分) 遺伝資源へのアクセス条件と、その利用から生じる利益の配分方法を規律する枠組み。利用者(研究機関・企業など)と提供者(国家・先住民・地域コミュニティ)の間で、相互に合意した条件(MAT)に基づく取引を要件とする。

PIC(Prior Informed Consent: 事前通知同意) 遺伝資源を取得する際に、提供国の権限ある当局から事前に通知・同意を得ることの義務。先住民・地域コミュニティが保有する遺伝資源に関連する伝統知識へのアクセスについても、コミュニティの PIC を得ることが求められる。

MAT(Mutually Agreed Terms: 相互に合意した条件) 遺伝資源の提供者と利用者が合意する利益配分の条件。条件は金銭的利益(ロイヤルティ等)と非金銭的利益(能力構築、技術移転、共同研究等)の両方を含みうる。

国家管轄の原則 各国は自国の天然資源(遺伝資源を含む)に対して主権的権利を有する。議定書は各締約国がアクセス規制と利益配分要件を国内立法で定めることを基本原則とする。

伝統知識(Traditional Knowledge)との連動 先住民・地域コミュニティが保有する、遺伝資源に関連する伝統知識は、遺伝資源そのものと不可分の関係にあると認識される。議定書は、遺伝資源へのアクセスが先住民・地域コミュニティの伝統知識へのアクセスを伴う場合、コミュニティの承認と参加を要件とする。

コンプライアンス規定 利用者が提供国のアクセス法令を遵守することを確保する義務規定。ABSクリアリングハウス(ABS-CH)を通じた情報共有と、「国際的に認められた遵守証明書(IRCC)」の発行制度を通じて実施される。

越境状況への対応 複数国にまたがる遺伝資源や、特定の提供者への PIC が不可能な場合の革新的解決策についても言及する。食料・農業のための植物遺伝資源(FAO の国際条約)など既存の多国間体制との相互補完性を明示する。

プロジェクトデザインとの関連

名古屋議定書は PD の文脈では、「誰のものかが曖昧な資源」を「誰が・どのような条件で・どのような利益交換のもとに」利用するかを制度として設計する試みとして読める。

議定書が扱う核心的な困難——遺伝資源という形のない・境界の曖昧な資源を、主権・コミュニティの権利・利用者の利益という複数の正当な請求の間で公正に配分する——は、プロジェクトにおける「誰のための何を、誰が決めるか」という権力とケアの問いを制度設計の問題として具体化した事例である。

PIC(事前通知同意)の原則は、Love 駆動開発における「関係性の尊重」を制度語彙で表現したものとして読める。資源を一方的に取得するのではなく、提供者の意思と文脈を確認した上で関係を結ぶという原則は、プロジェクトにおける参加者の自律性の尊重と構造が共通する。

また、金銭的利益と非金銭的利益(技術移転・能力構築・共同研究)を同列に扱う MAT の設計は、プロジェクトにおける価値交換が金銭のみに収まらないという PD の視点と共鳴する。「どのような利益をどのような形で循環させるか」という設計の問いは、PD において常に問われる問題である。

D30 ドメイン(伝統知・技芸)の文脈では、名古屋議定書は知の束(伝統知識の体系)が世代間・地域間を越えて動くときに生じる権利・義務・関係性の問題を制度として処理しようとする試みとして位置づけられる。

書誌情報

  • 著者: 生物多様性条約事務局(Secretariat of the Convention on Biological Diversity)
  • 年: 2010年採択、2018年版刊行
  • 出典: United Nations Environment Programme / Secretariat of the Convention on Biological Diversity, Montreal
  • access_status: raw-confirmed
  • 公式URL: CBD 名古屋議定書