認知発達と知能のネットワークモデル

高校生向けのやさしい解説

頭のよさを測るテストでは、計算が得意な人は読解も得意、という具合に得点どうしが正の相関を持ちます。これを昔は「知能 g という一つの中身がある」と説明しました。でもこの論文は「そんな単一の中身を仮定しなくても、記憶・推論・言語などの能力が発達の途中でお互いを引き上げ合うネットワークだと考えれば、正の相関は自然に生まれる」と示します。しかも同じネットワークの『つながりの強さ』を変えるだけで、なだらかな成長にも、ピアジェのような段階的なジャンプにもなる——認知の仕組みと個人差を一つの絵でつなぐ論文です。

概要

本論文は、認知の機構(mechanisms)を扱う実験心理学と、個人差(intelligence)を扱う相関心理学という Cronbach (1957) の「2 つの学問」の分断を、ネットワークモデリングで架橋することを主張する。一般知能の正の多様体(認知能力テスト得点間の正相関)を説明する 3 モデル(g 因子モデル・サンプリングモデル・相利共生モデル)を比較し、著者らの相利共生(mutualism)モデル——W 個の認知過程が相互に成長を促進し合う Lotka–Volterra 型力学系——が、g を「脳内の単一実体」と仮定せずに正の多様体を創発させると論じる。さらにネットワークモデルが現代心理測定(因子モデル / IRT)と数学的に等価であること(Ising モデル ≡ 多次元 2 パラメータ IRT、相利共生 ≡ 因子モデル)を示し、ネットワークの相転移(カスプ破局・Ising 温度)が Piaget 的な離散的発達段階と連続的発達の双方を同一ネットワークから生み出すことを示す。

主要概念

認知の機構と個人差はネットワークで架橋できる

“we argue that network modeling is a promising approach to integrate the processes of cognitive development and (developing) intelligence into one unified theory.” (Abstract)

機構(個人内の過程)と個人差(個人間の変動源)を統合するモデルが必要で、ネットワークモデルはその両方を担える。従来の g 因子モデルは潜在変数 g が何を表すか(脳の大きさ?作業記憶?処理速度?)が 100 年の研究でも未解決という限界を持つ。

相利共生モデル — 相互促進する認知過程のネットワーク

“growth in one aspect is partly autonomous and partly based on growth in other aspects.” (p.5)

各過程の成長を「自律的ロジスティック成長+他過程との相利的相互作用(行列 M)」で記述する(Eq.1)。個人差は限界容量 K の差(遺伝+環境)に由来し、単一の個人差源(g)は存在しない。等相互作用の相利共生モデルと 1 因子モデルは同一の共分散行列を生む——すなわち g は創発的記述であって脳内実体ではない。

同一ネットワークが連続的・離散的発達を生む(相転移)

“the same network can give rise to both continuous and discontinuous cognitive-intellectual development.” (p.2)

強磁性を説明する Ising モデルが多次元 2 パラメータ IRT と数学的に等価であり、ネットワークの温度(結合強度)に応じて潜在特性分布が単峰(連続的発達)にも双峰(段階移行)にもなる。Piaget 的段階移行はカスプ破局として相転移で記述できる。統一モデルは相利共生・環境を介した乗数効果・サンプリング・作業記憶の中心性の 4 要素を統合する。

関連

  • 創造(creation-space: 場→波→縁→渦→束): 相互作用ネットワークの相転移を扱うため 5 段階の全段階に対応する。場(相互作用前の自律成長を持つ認知過程ノード群)、波(発達中にネットワークを伝播する相互促進的成長)、縁(相互作用行列 M・カスプ破局・Ising 相転移=段階移行の臨界)、渦(創発する正の多様体・新段階という alternative stable state)、束(g 因子・因子構造・IRT として再利用される不変則)。同領域の D23-S14 van Geert (1998) が個別成長軌道の力学を扱うのと相補的で、本論は認知過程ネットワークの創発構造を扱う。詳細は creation-space の D23 source-note を参照。

書誌情報

  • 著者: Han L. J. van der Maas, Kees-Jan Kan, Maarten Marsman, Claire E. Stevenson(University of Amsterdam)
  • 年: 2017
  • 出典: Journal of Intelligence 5(2), 16
  • access_status: raw-confirmed(MDPI gold OA, CC BY, 全文精読)
  • DOI: 10.3390/jintelligence5020016
  • オープンアクセス: PDF