進化する自己
高校生向けのやさしい解説
大人になれば成長が止まる、と思いがちですよね。心理学者キーガンはそれに反対して、人は一生を通じて「世界の見え方」が何度も根本から組み替わっていくと考えました。昨日まで「自分そのもの」だと思っていた感情や役割から、ある日ふっと距離を取れるようになる——そういう段階がいくつもあるというのが彼の発達理論です。大人になっても意識は進化し続けるのだ、と教えてくれる本です。
概要
ロバート・キーガン(1982)は、ピアジェの認知発達論を人格・自我発達の領域へと拡張し、「意味形成の進化」を核とする構成的発達理論を提示した。人間は生涯を通じて意味形成のシステムを変容させていく存在であり、その変容プロセスこそが自己の発達であると主張する。本書はエリクソンの発達心理学の伝統を継承しながら、精神分析的視点と実存的・現象学的視点を統合する第三の道として「構成的発達(constructive-developmental)」アプローチを提唱する。発達を「達成」と同時に「制約」として捉える点、および情動・対人関係・内的プロセスを認知発達論の枠内で扱う点が独自性である。
主要概念
意味形成(meaning-making)
キーガンの中心概念は「意味形成」である。人間は外的刺激に直接反応するのではなく、出来事を内的に構成(compose)してから反応する。この「出来事が個人にとっての出来事になる」領域こそが人格心理学の探求すべき場所であり、キーガンはそれを自我、自己、人格と呼ぶ。
構成的発達段階と「進化的停戦」
本書はピアジェの主体-客体構造を発達心理学・臨床心理学に応用し、生涯発達の段階を「組み込み自己(incorporative self)」から始まり「衝動的自己」「帝国的自己」「対人的自己」「制度的自己」「個人間的自己」へと連なる系列として記述する。各段階は、以前は「主体」として経験されていたもの(それに没入していたもの)が「客体」として意識化される(それについて反省できるようになる)転換として理解される。この転換過程をキーガンは「進化的停戦(evolutionary truces)」と呼ぶ。
埋め込まれた文化(embeddedness cultures)
各発達段階において人は特定の「埋め込まれた文化」の中で支えられる。家族、仲間、役割・制度など、それぞれの段階に対応する社会的文脈が存在し、発達の「保持と挑戦」の場を提供する。臨床的実践においてはこの保持機能(holding)の意義が重視される。
自然的療法(natural therapy)
発達とは、特定の埋め込みから脱埋め込みへの移行であり、その過程は苦しみを伴う「自然的緊急事態」として経験される。治療的関係においてクライアントがその経験の仕方で理解されることが、発達支援の核心であるとキーガンは論じる。
関連
キーガンの構成的発達段階は、意識が「主体から客体へ」と転換していく過程として記述される。この転換プロセスは アウェアネスモデル(as)が探索する意識の構成的変容——より深い層への移行と、以前の同一化からの脱埋め込み——と直接対応する。
書誌情報
- 著者: Robert Kegan
- 年: 1982
- 出典: Harvard University Press, Cambridge, Massachusetts
- access_status: raw-confirmed
- ISBN: 978-0-674-27231-5