デザイン思考論文に求められる要件とは何か

高校生向けのやさしい解説

「デザイン思考」という言葉はビジネス書や研修で流行していますが、大学の経営学の論文ではどう扱われているのか——秋池・市光の二人がその研究動向を丁寧に調べました。結果、実証研究の多くは「ユーザーをよく観察すること」と「試して確かめること」の二つにぐっと集約されていることが分かった、というレビュー論文です。

概要

本論文は秋池篤(東北学院大学)と市光哲矢(東北大学大学院)が2021年にAnnals of Business Administrative Science(ABAS)誌に発表したデザイン思考の研究動向レビューである(Vol. 20, pp. 197-209)。Web of Scienceデータベースを用いて経営学の主要学術誌(Creativity and Innovation Management: CIM、Journal of Product Innovation Management: JPIM、Journal of Management等)に掲載されたデザイン思考関連論文を網羅的に調査した。レビューの結果、(a) 既存のレビュー論文はデザイン思考の多様な要素を指摘しているが、(b) 最新の実証研究はBrown(2009)とMartin(2009)を共通の基盤としてユーザー中心性と実験を共通テーマとして扱っている、という2点が明らかになった。

主要概念

デザイン思考の定義(Brown, 2008による) デザイン思考は「人間中心のデザイン思想をイノベーション活動全体に浸透させる方法論」とされる。Brown(2008)は(i)インスピレーション、(ii)アイデア創出、(iii)実装というプロセスの反復を主張し、人間中心のアプローチと分野横断的な人材活用を提唱した。

実証研究の収束 多様な要素を扱う既存レビューとは異なり、実証研究の多くはBrown(2009)とMartin(2009)の枠組みを基盤とし、「ユーザー中心性(user centeredness)」と「実験・試行(experimentation)」を共通テーマとして取り上げている。この収束は、経営学における実証的なデザイン思考研究の主流がこれら2つの概念を中核に形成されていることを示す。

レビュー対象論文の分布 Johansson-Sköldberg et al. (2013)、Seidel & Fixson (2013)、Liedtka (2015)、Carlgren et al. (2016)、Elsbach & Stigliani (2018)、Micheli et al (2019)、Dell’Era et al. (2020)など、2013年から2021年にかけての主要論文が網羅された。定性・定量・レビューの各タイプが含まれる。

学術的位置づけ デザイン思考は実務では著名な方法論(IDEOのShimano自転車開発の事例が代表的)であるが、経営学における学術的議論としては十分に展開されてこなかった。本論文はその空白を埋めるレビューとして位置づけられる。

関連

デザイン思考の実証研究が「ユーザー中心性」と「実験」に収束するという知見は、欠損駆動思考との学術的接続点を持つ。問題を定義し直す(フレーミング)プロセスは、予測と現実の誤差(欠損)を起点として問いを再構成するという欠損駆動思考の構造と対応する。実験を通じた反復的学習は、欠損を解消するのではなく探索の道具として使う抱持の実践と重なる。

書誌情報

  • 著者: Atsushi Akiike, Takeyasu Ichikohji
  • 年: 2021
  • 出典: Annals of Business Administrative Science, Vol. 20, pp. 197-209. doi:10.7880/abas.0210930a
  • access_status: raw-confirmed
  • DOI: 10.7880/abas.0210930a