景気循環論

高校生向けのやさしい解説

景気は好調と不調を繰り返しますが、その波は一種類ではなく、短い波(在庫調整・3-4年)・中くらいの波(設備投資・10年)・長い波(技術革命・50年)が同時に重なっている——シュンペーターはそう考えました。そしてその波を作るのはイノベーション。新しい発明が既存のものを壊しながら新しい秩序を生む「創造的破壊」こそが資本主義の本質だ、と論じた大著です。

概要

Joseph A. Schumpeter による1939年刊行の二巻本大著。副題は「資本主義過程の理論的・歴史的・統計的分析」。1911年の主著『経済発展の理論』で提示したイノベーション(Neukombination/新結合)と企業家の理論を、より精緻な景気循環の実証分析に適用・発展させた。コンドラチェフ波(約50年周期)・ジュグラー波(約10年周期)・キチン波(約40ヶ月周期)という三種の景気循環の重ね合わせモデルを展開し、各循環が独立したイノベーションの波によって駆動されるという理論を構築した。資本主義の本質を静的均衡ではなく「創造的破壊」の動的プロセスとして捉えるシュンペーター経済学の集大成的著作。

主要概念

イノベーション(新結合)の内生性

景気循環の出発点はイノベーションである。シュンペーターにとってイノベーションとは新製品・新生産方法・新市場・新供給源・新組織という五種の新結合を指す。これは技術的発明(invention)とは区別され、発明を経済に実装する企業家行動(innovation)が重要である。イノベーションは経済の外部から降ってくるのではなく、資本主義の内部から生じる内生的力である。

企業家と信用創造

イノベーションを実行する主体は「企業家(Unternehmer)」である。企業家は既存の経済循環から飛び出して新結合を実行する。これには現在の生産要素を新たな用途に向けることが必要であり、そのための「購買力の創造」——銀行信用——が資本主義的発展を可能にする。信用は既存の貯蓄の移転ではなく新たな購買力の創出として機能する。

三波モデル

景気循環は単一のリズムではなく、三つの異なる周期の波が重なり合う。コンドラチェフ波は大規模な技術革命(蒸気機関、鉄道、電力など)に対応する長期波動。ジュグラー波は設備投資サイクルに対応する中期波動。キチン波は在庫調整サイクルに対応する短期波動。この三波の重ね合わせが現実の景気変動の複雑なパターンを生む。

創造的破壊

イノベーションは新しいものを生み出す(創造)と同時に、既存の構造・企業・産業を陳腐化させ破壊する(破壊)。この「創造的破壊(creative destruction)」は資本主義の本質的属性であり、成長の代価である。均衡への復帰ではなく絶え間ない攪乱が資本主義の常態である。

均衡の「仮想基準点」としての役割

シュンペーターは均衡を否定しない。均衡は実際には達成されないが、経済システムが向かおうとする仮想的な「引力点」として理論的に重要である。イノベーションはこの均衡を絶えず攪乱し、新たな均衡水準への移行過程が景気循環として現れる。

資本主義の自己破壊的傾向

後の著作『資本主義・社会主義・民主主義』(1942年)へとつながる萌芽として、景気循環論においても資本主義の成功が官僚化・合理化を通じてイノベーションの源泉である企業家精神を侵食するという洞察が見られる。

書誌情報

  • 著者: Joseph A. Schumpeter
  • 年: 1939
  • 出典: Business Cycles: A Theoretical, Historical and Statistical Analysis of the Capitalist Process (2 vols.), New York: McGraw-Hill
  • access_status: raw-confirmed
  • 全文: Internet Archive