経済発展の理論(初版)

高校生向けのやさしい解説

経済が少しずつ大きくなる「成長」と、新しい何かが既存の仕組みを壊して生まれる「発展」は別物だ——シュンペーターはここを区別しました。発展の源は、起業家が既存の材料や人や技術をこれまでにない組み合わせで使うこと(新結合)。スマホが電話と音楽プレイヤーとカメラを一つにまとめたような出来事が、経済を内側から動かしていく、という理論の出発点になった本です。

概要

本書は Joseph A. Schumpeter(1883–1950)が1912年(原著ドイツ語)に発表した経済学の主著初版の復刻である(Duncker & Humblot, 2006年復刻、Jochen Röpke・Olaf Stiller による序論付き)。後に一般に知られる英訳版(1934年)は大幅に改訂されており、初版とはほぼ別の書物と言えるほど異なる。本書の核心は「経済発展とは何か」という問いへの答えとして、外部からの衝撃ではなく経済システム内部から生まれる変化——起業家の「新結合(Neue Kombinationen)」——が発展を生み出すという主張である。Schumpeterはここで初めて、静態的な均衡経済との対比として起業家機能を理論的に定式化した。

主要概念

静態的な循環経済(Kreislauf)と発展の対比

Schumpeterは出発点として「静態的な循環(Kreislauf)」経済——生産・消費・所得が同じパターンを繰り返す状態——を想定する。このモデルでは変化は外部からのショックによってのみ起きる。「発展(Entwicklung)」とはこの循環を内側から破る質的変化であり、単なる量的な成長とは区別される。この区別がSchumpeterの経済学的革新の核心である。

新結合(Neue Kombinationen)

発展は「新結合」によって生じる。新結合とは以下のいずれかである。

  1. 新しい財・サービスの生産
  2. 新しい生産方法の導入
  3. 新しい市場の開拓
  4. 原材料・半製品の新しい供給源の獲得
  5. 新しい産業組織の実現(独占の形成または解体を含む)

これらは後の版では「イノベーション」として総称されるようになったが、初版ではより行為論的に「新結合の実行」として捉えられている。

起業家(Unternehmer)

新結合を実行する主体が「起業家(Unternehmer)」である。Schumpeterの起業家は資本の所有者ではなく、新しい組み合わせを発想し実行に移す機能的な役割である。起業家機能は資金・技術・労働をすでに持っている人間が担うとは限らない——むしろ既成の慣行に縛られない者が担うことが多い。この起業家概念は、後の「イノベーター」「ディスラプター」概念の原型となった。

信用とイノベーションの関係

初版の特徴的な論点として、起業家は実物資源を持たずとも信用(クレジット)を通じて購買力を獲得し新結合を実行できるという主張がある。銀行は信用を創造することで起業家に実行の手段を供給する——この「内生的貨幣」論は後の版では後退したが、初版では中心的な位置を占めていた。

社会経済学(Sozialökonomik)的視点

初版はより広い社会科学的・行為論的視点を持っており、経済活動を心理・社会・制度的文脈のなかで捉えようとしていた。Röpke・Stillerの序論によれば、後の版でこの社会経済学的視点は削除され、より標準的な経済理論に収束した。初版の起業家像は意思・エネルギー・知識の担い手として描かれており、現代的な行為論・意欲論との接続が豊かである。

「創造的破壊」概念の前身

「創造的破壊(Schöpferische Zerstörung)」という言葉自体は『資本主義・社会主義・民主主義』(1942)に登場するが、その核心的な論理——新しいものが古いものを内側から壊しながら発展が起きる——は本書に既に存在する。

書誌情報

  • 著者: Joseph Alois Schumpeter
  • 年: 1912(初版)、2006(Duncker & Humblot より復刻、Röpke・Stiller 序論付き)
  • 出典: Duncker & Humblot, Berlin(復刻版)
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  • 全文: Internet Archive