発見手続きとしての競争

高校生向けのやさしい解説

スポーツの大会も入学試験も、結果が先に分かっていたら開催する意味がないですよね。ハイエクは、市場の競争もそれと同じだと言いました。競争は「すでに知られている最適解を割り当てる機械」ではなく、「やってみないと誰も知らなかったことを発見する手続き」だ、という見方です。だから計画経済では発見が起きず、自由な競争を残すことに価値があるのだ、と主張した講演の論文です。

概要

本論文は Friedrich A. Hayek(1899–1992)が1968年にキール大学世界経済研究所で行った講演「Der Wettbewerb als Entdeckungsverfahren(発見手続きとしての競争)」の英訳(Marcellus S. Snow 訳)であり、『The Quarterly Journal of Austrian Economics』Vol. 5, No. 3(2002年)に収録された。全23ページの論考ながら、Hayekの経済知識論・方法論批判・市場秩序論が凝縮されている。競争とは「すでに知られている事実を効率的に配分する装置」ではなく、「競争がなければ誰も知ることのなかった事実を発見する手続き」であるという中心命題を展開する。

主要概念

競争を発見手続きとして捉える

従来の経済理論(特に新古典派均衡論)は、すべての「データ」が既知である条件下で競争を分析してきた。しかしHayekに言わせれば、もしデータが全て既知ならば競争そのものが不要になる。スポーツ競技・試験・コンペ・科学研究のいずれも、結果が事前に分かっていれば実施する意味がない。競争の価値は本質的に、その結果が予測不可能であることにある——「競争は重要である、なぜならその結果は予測不可能だからこそ」。

分散した知識の問題

Hayekの知識論(1945年「知識の利用」で展開)の応用として、本論文は市場に参加する個々の経済主体が持つ知識は断片的・局所的・暗黙的であることを強調する。価格システムはこの分散した知識を中央に集約せずに調整できる仕組みである。競争とは、この分散知識を発見し利用する社会的手続きにほかならない。

マクロ理論批判と方法論的個人主義の擁護

Hayekは「細部の構造(fine structure)のみが競争の役割を理解させる」として、集計量(国民所得・投資・物価水準等)に依存するマクロ経済理論を方法論的に批判する。統計的変数は「因果的に多様な事象の混合物」であり、マクロ理論からは競争が機能する条件を定式化することができない。この批判において、Hayekは若きSchumpeterの方法論的個人主義を支持する言及をしている。

パターン予測という概念

理論から導けるのは「具体的な個別事象の予測」ではなく「創発する秩序のタイプの予測(パターン予測)」に過ぎない。この方法論的制約は欠陥ではなく、複雑な現象を扱う理論の本質的な特徴である。自然科学においても「科学的方法の利点」を科学的に証明することはできない——それは実績によって認められるのみである。

カタラクシー(自発的市場秩序)

Hayekは市場秩序を「真の意味での経済(economy)」——単一の目標体系に向けられた組織——とは区別し、「カタラクシー(catallaxy)」と呼ぶ。カタラクシーは特定の目標を持たず、多様な個人の多様な目的を同時に可能にする自発的秩序である。この区別から、「市場が『最適』を達成しない」という批判の多くは誤った基準を適用していることになる。

負のフィードバックと期待の調整

市場は「負のフィードバック」によって個々の計画を相互調整する。「見えざる手」はこのフィードバック機構の比喩的表現であると Hayek は解釈する。均衡とは「真の均衡は現実には存在しないが、それに向かう傾向としての秩序」であり、「秩序(order)」概念の方が「均衡(equilibrium)」より適切と主張する。

書誌情報

  • 著者: Friedrich August von Hayek
  • 年: 1968(講演原典)、2002(英訳掲載)
  • 出典: “Competition as a Discovery Procedure,” trans. Marcellus S. Snow. The Quarterly Journal of Austrian Economics, Vol. 5, No. 3 (Fall 2002), pp. 9–23. 原題: “Der Wettbewerb als Entdeckungsverfahren,” Kieler Vorträge, No. 56, Institut für Weltwirtschaft, Universität Kiel, 1968.
  • access_status: raw-confirmed
  • オープンアクセス: Mises Institute