社会における知識の利用
高校生向けのやさしい解説
もし国の偉い人がみんなの情報を一箇所に集めて「何をいくつ作ればいいか」を決めようとしたら、うまくいくと思いますか?ハイエクは「絶対に無理」と言いました。必要な情報——自分の畑の今の状態、近所のお店の値段、使っていない工場の空き——は一人ひとりにしか分からないから。そして、そのバラバラの知識を誰にも集約させずにうまく伝えあうシステムこそが「価格」なのだ、という経済学の古典的論文です。
概要
本論文はフリードリヒ・ハイエクが1945年にAmerican Economic Review誌(Vol. XXXV, No. 4)に発表した経済理論の古典的論考である。ハイエクは「合理的な経済秩序を構築する問題とは何か」という問いを出発点に、社会が直面する真の問題は「与えられたデータに基づいて論理的な最適解を求めること」ではなく、「特定の個人の全体には与えられていない分散した知識をいかに最大限に活用するか」であると論じた。この認識論的論点から、価格メカニズムが分散した知識を効率的に伝達するシステムとして機能することを論証し、中央計画の根本的な限界を明示した。
主要概念
知識の分散性(dispersion of knowledge) 社会において必要な知識は、ある単一の精神に集中した統合的な形では決して存在せず、すべての独立した個人が持つ不完全で矛盾することもある知識の分散した断片としてのみ存在する。この事実が「合理的経済秩序」の問題を根本的に規定する。
二種類の知識 ハイエクは知識を「科学的知識(scientific knowledge)」と「特定の時間と場所の状況についての知識」に区別した。後者は個別的・具体的・局所的であり、科学的・統計的方法では捉えにくい。特定の機械の活用されていない能力、地域の価格差、運搬資源の状況といった知識は、担当者のみが保有する。
価格メカニズムの認識論的機能 価格は単なる資源配分の指標ではなく、分散した知識を最小限のコミュニケーションで伝達する「奇跡のようなシステム」である。錫の産地での希少化という情報は、世界中の錫使用者に価格上昇という形で伝わり、それぞれが節約行動をとる——この伝達に「なぜ価格が上がったか」の知識は不要である。
中央計画の認識論的限界 計画立案者が社会で活用すべき全知識を集約することは原理的に不可能である。なぜなら、必要な知識の多くは集中化できない性質(特定の時間と場所に依存)を持っているからである。
分散した計画(decentralized planning) 競争とは「多数の独立した人々による分散した計画」であり、中央計画の対極にある。ハイエクはシュンペーターによる「消費財の評価が生産要素の評価を含意する」という主張を批判し、それが「同時に一つの精神に与えられた」場合にのみ成立する論理であると指摘した。
書誌情報
- 著者: Friedrich August von Hayek
- 年: 1945
- 出典: American Economic Review, Vol. XXXV, No. 4, September 1945, pp. 519-530
- access_status: raw-confirmed
- DOI: 10.1257/aer.35.4.519