言語の起源

高校生向けのやさしい解説

言葉がバラバラの大人たちが出会うと、とりあえず単語をつないだ片言のコミュニケーション(ピジン語)が生まれます。でも不思議なのは、その次の世代の子どもたちが、それを一気に文法の整った本物の言語(クレオール語)に作り変えてしまうこと。ビッカートンは、これは人間が生まれつき言語のひな型を脳に持っているからだ、と提案しました。赤ちゃんが言葉を覚える速さと、昔話のような言語の起源を、同じ仕組みで説明しようとする本です。

概要

本書はアメリカの言語学者 Derek Bickerton(1926–2018)が1981年に発表した著作(2016年に Language Science Press から改訂版再刊)である。Bickertonは「クレオール語はどのように生まれたか」「子どもはどうやって言語を習得するか」「人類の言語はどのように起源したか」という三つの従来別々に論じられてきた問題が、実は同一の問題の三つの側面であると論じた。中心的な提案は「言語バイオプログラム(Language Bioprogram)」仮説——すなわち、人間は生物学的に言語の基本文法を持って生まれてくるという仮説——であり、クレオール語の普遍的構造がその証拠として機能すると主張した。

主要概念

三つの問いの統一

Bickertonは序論で明示する通り、本書は以下三問を一つの問いとして扱う。

  1. クレオール語はどのように生まれたか
  2. 子どもはどのように言語を習得するか
  3. 人類の言語はどのように進化したか

いずれか一つへの答えが他の二つに答えないならば、その答えは誤りだと彼は断言する。

クレオール語の形成と「ピジンからクレオールへ」

クレオール語は、共通語を持たない集団が接触した際にまず生まれる構造の乏しい「ピジン語」から、その次世代の子どもたちが一世代で豊かな文法を持つ言語を創出する過程で生まれる。Bickertonはハワイ・クレオール英語(Hawaiian Creole English)を主要事例として分析し、クレオール語の文法特徴——時制・相・叙法(TMA)システム、定冠詞・不定冠詞の体系、コピュラの有無、否定形式など——が世界の異なるクレオール語で驚くほど共通していることを示した。

言語バイオプログラム仮説

クレオール語に見られる文法的普遍性は、各言語の「基底」(親語)から受け継がれたとは説明できない。Bickertonはこれを、人間に生物学的に内在する言語の「バイオプログラム」——特定の意味区別をマーカーで表示しようとする生得的傾向——が表出したものと解釈した。このバイオプログラムは、成人が使えなくなった後も子どもに残存し、入力が不十分な環境でも文法を生成できる。

子どもの言語習得との接続

バイオプログラムは子どもの言語習得においても働く。子どもが「普通の」言語を習得する際にも同じ生得的枠組みが機能しており、クレオール語と通常言語の習得順序の違い(クレオール的構造が通常言語では遅く習得される特徴)はバイオプログラムと既存言語との「摩擦」として説明される。

人類の言語起源との接続

最古の人類言語もまた、クレオール語に近い形だったと Bickerton は推測する。文法的洗練度の低いピジンに相当する段階から、バイオプログラムが作動して本格的な言語が出現したという筋書きは、言語進化の連続性問題(言語は他の動物コミュニケーションから進化できたのか)への一つの回答でもある。

2016年版での修正

2016年改訂版序文で Bickerton は、TMA システムが純粋に「生得」なのではなく、デフォルトカテゴリー(過去/非過去・既成/未成・単回/反復継続)と経済原則の組み合わせから「創発する」最適システムとして再定式化した。また「プランテーション・クレオール」に研究対象を絞り込むべきだという精緻化も加えた。

書誌情報

  • 著者: Derek Bickerton
  • 年: 1981(初版)、2016(Classics in Linguistics 3 として再刊)
  • 出典: Language Science Press, Classics in Linguistics 3, Berlin(2016再刊版)
  • access_status: raw-confirmed
  • 全文: OAPEN