確実性の探求
高校生向けのやさしい解説
人間がずっと「絶対に正しい答え」を求め続けてきたのはなぜか——その心理的・歴史的な根っこを掘り下げた1929年のデューイの哲学書です。不確実な世界で生きる不安から逃げるために「動かない真理」を作り上げ、行動より知識を上に置く習慣が哲学に根づいたとデューイは批判します。代わりに「完全な確実性ではなく、根拠のある行動を目指せばよい」という実践的な知のあり方を提案した本です。
概要
本書はJohn Deweyが1929年にエジンバラ大学でのギフォード講演をもとに刊行した認識論・実践哲学の主著である。副題「知識と行為の関係の研究(A Study of the Relation of Knowledge and Action)」が示す通り、西洋哲学が長年保持してきた「純粋な知識(理論)の優位」と「実践・制作の劣位」という価値序列の歴史的・文化的起源を解剖し、これを覆す哲学的転換を提唱する。人間が行為の不確実性から逃れるために「動かぬ存在(immutable being)」を求めてきた心理的・社会的プロセスが批判的に追跡される。
主要概念
確実性への逃避
人間は生きることの本質的危険と不確実性に直面して、それを制御しようとする二つの方法を発展させてきた。第一は祈祷・儀礼・呪術——内面の態度を変えることで外的権力に適応しようとする方法。第二は技術・芸術——行為によって自然の力を制御しようとする方法。西洋哲学は前者から派生し、変化する実践的世界の「上」に不変の知識の領域を置く二元論を構築した。
理論と実践の二元論の批判
哲学の伝統は「知ること(knowing)」を不変・普遍・永遠の対象と結びつけ、「すること(doing)」を可変・個別・不安定な物質的世界として劣位に置いてきた。デューイはこの価値序列が哲学的論証ではなく、社会的・歴史的条件(奴隷制度、手仕事の軽蔑、貴族的余暇の賞賛)から生まれたものであることを示す。
行為による知識の再定義
実験科学の台頭は「理論と実践の関係」を根本的に変えた。実験において観察は受動的なものではなく、条件を意図的に変化させる積極的行為である。デューイはここから「知識とは行為によって世界を変える操作の産物」という実験主義的認識論を引き出す。知識の価値は固定した存在への対応ではなく、探究の道具(instrument)としての有効性にある——これがデューイの道具主義(instrumentalism)の核心。
確実性から保証(warranty)へ
哲学の目標を「絶対的確実性の獲得」から「十分に保証された主張(warranted assertibility)」へと転換することをデューイは提唱する。行為は常に不確実を帯びるが、知的な探究によって「賢明な行為(intelligent action)」が可能になる。完全な確実性ではなく、根拠に裏付けられた「賢明さ」が実践的知識の目標となる。
経験の再評価
経験は従来、感覚印象の受動的受容として捉えられてきた。デューイは経験を「有機体と環境の能動的相互作用」として再定義する。経験は「試みること(trying)」と「こうむること(undergoing)」の連続として理解され、行為と結果の連関を学ぶプロセスとなる。
関連する探索キーワード
「確実性への逃避」——不確実性に耐えられず性急に解消しようとする傾向——はネガティブケイパビリティ(ks)が問う問題と同根であり、デューイがその批判を哲学史的スケールで展開したことは欠損駆動思考(ks)の認識論的根拠として機能する。「経験を有機体と環境の能動的相互作用として再定義する」という視点はアウェアネスモデル(as)が描く意識の構成的プロセスを哲学的に裏付ける。
書誌情報
- 著者: John Dewey
- 年: 1929
- 出典: G. P. Putnam’s Sons / Minton, Balch and Company, New York(ギフォード講演, 1929年)
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