思考の方法(1910年版)
高校生向けのやさしい解説
「あれ、なんかおかしい」という違和感こそが本当の思考の出発点だとデューイが示した1910年の本です。頭の中を流れる何となくの考えと、根拠を確かめながら問い直す「反省的思考」を区別し、後者こそが科学的・教育的に価値があると論じました。問題を感じ→仮説を立て→実験で確かめるという構造は、現代のプロジェクト型学習や問題解決型授業の理論的な根拠になっています。
概要
本書はJohn Deweyが1910年にD. C. Heath社から刊行した教育哲学の主著である。思考を「漠然とした観念の流れ」から「厳密な反省的探究」まで幅広く捉え直し、教育の目的を科学的態度の涵養に置く立場から「反省的思考(reflective thinking)」の構造と訓練の方法を体系的に論じた。デューイはコロンビア大学Laboratory Schoolでの実践経験をもとに、子供が持つ好奇心・想像力・実験探究の傾向が科学的精神と連続していることを示した。本書は後の探究共同体・問題解決型学習の理論的基盤となった。
主要概念
思考の四形態
デューイは思考を四つの段階的な意味で区別した。第一は頭の中を「流れる」すべての観念という最広義の意味。第二は直接知覚を超えた事柄への言及。第三は何らかの根拠に基づく信念(ただし根拠の検討なし)。第四が本書の主題である反省的思考:信念の根拠を意識的に探求し、その結論を検証する過程。
反省的思考(Reflective Thinking)の定義
「ある信念または知識の想定される形態を、それを支持する根拠と、それが導く結論の観点から、能動的・持続的・注意深く考察すること」がデューイの反省的思考の定義である。これは単なる観念の連鎖ではなく、各段階が次の段階を必然的に引き出す連続的な「結論(consequence)」として構造化される。
探究の論理的構造
完全な思考行為(complete act of thought)は以下の局面を含む:(1)困難ないし問題の感知、(2)問題の定位と定義、(3)仮説の形成(示唆・暗示)、(4)仮説の演繹的展開、(5)観察と実験による検証。この構造は後の「探究の論理(Logic of Inquiry)」理論へと発展する。
示唆と反省的思考の核心
思考は「観察された事実が観察されない別の事実を示唆する」ことから始まる。雨雲の例:暗い雲を見て「雨が降るかもしれない」と考える。この示唆を単なる連想(cloud = face)と区別するのが、示唆を根拠として検証する意志である。この「示唆の根拠への問い」が反省的思考の出発点となる。
教育への含意
科学的態度は特定の知識内容ではなく「探究の習慣(habit of inquiry)」として捉えられる。子供が本来持つ好奇心と実験的傾向は科学的精神の萌芽であり、教育はこれを消し去るのではなく育て上げるべきとデューイは主張する。思考の訓練とは一連の教授法のコレクションではなく、問題に向き合う全人的な態度の形成にある。
関連する探索キーワード
デューイの「完全な思考行為」は欠損駆動思考(ks)の探究論的先駆として位置づけられ、「困難や障害の感知」から探究が始まるという構造は欠損が問いを駆動するという論理と直接対応する。示唆を根拠として検証する意志——不確かさを抱えたまま問い続ける能力——はネガティブケイパビリティ(ks)の認識論的定式化として読める。
書誌情報
- 著者: John Dewey
- 年: 1910
- 出典: D. C. Heath & Co., Boston
- access_status: raw-confirmed
- 全文: Wikimedia Commons