総合的防除の概念

高校生向けのやさしい解説

DDTなどの農薬を大量に使い続けた結果、天敵まで減って害虫がかえって増えてしまうという皮肉な事態を受けて、「農薬は必要最小限に、天敵など自然の力をうまく使おう」という考え方を提唱した1959年の論文です。「害虫が経済的に被害を与えるレベルを超えてから初めて農薬を使う」という「経済的閾値」の概念はここで生まれ、現代のIPM(総合的病害虫管理)の原点になっています。

概要

本論文はVernon M. Stern, Ray F. Smith, Robert van den Bosch, Kenneth S. Hagenによって1959年に Hilgardia(カリフォルニア農業試験場誌)に発表された。20世紀前半に急速に普及した有機農薬(DDTなど)の広域使用が生態系への深刻な副作用をもたらしたことを受け、著者らは化学防除と生物的防除を互いを補完するものとして統合する「総合的防除(Integrated Control)」概念を提唱した。経済的被害水準・経済的閾値・一般均衡位置といった概念を定義し、害虫防除を単なる「殺虫」ではなく「生態系管理」として捉える視点を示した。現代の総合的病害虫管理(IPM)の礎となった文献である。

主要概念

総合的防除(Integrated Control)

化学防除を「必要な時に・生物的防除への影響を最小化する方法で」使用するアプローチを指す。生物的防除(天敵・寄生者・病原体による自然制御)と化学防除は代替関係ではなく補完関係として位置づけられる。化学農薬は自然制御の失敗を補う「最後の手段」として機能すべきと論じる。

経済的被害水準(Economic-Injury Level)

経済的損害を生じさせる最低限の害虫密度として定義される。この閾値を超えた場合のみ人為的防除が正当化される。被害の「経済的」評価は時代・地域・市場価値によって変化する動的な概念である。

経済的閾値(Economic Threshold)

防除措置を開始すべき密度水準で、経済的被害水準よりも低く設定される。防除措置の実施から効果発現までの時間的ラグを考慮するためである。この概念により「先手を打つ防除」のタイミングを合理的に決定できる。

一般均衡位置(General Equilibrium Position)

長期間の平均的な害虫密度を指す。生物的防除は一般均衡位置を恒久的に低下させる効果を持つが、化学防除は局所的・一時的な密度低下をもたらすに過ぎない。DDTなどの広域使用は天敵を排除することで一般均衡位置を逆に高める副作用をもたらした事例(ワタフフキカイガラムシの再興等)が詳述される。

農薬問題の整理

広域・大量の有機農薬使用がもたらした問題として、(1)薬剤抵抗性の発達、(2)非標的種への二次被害、(3)標的種の急速再増殖(flare-back)、(4)残留毒性、(5)薬剤散布者・野生生物への健康被害が体系的に整理されている。

書誌情報

  • 著者: Vernon M. Stern, Ray F. Smith, Robert van den Bosch, Kenneth S. Hagen
  • 年: 1959
  • 出典: Hilgardia: A Journal of Agricultural Science, 29(2), 81–101. California Agricultural Experiment Station.
  • access_status: raw-confirmed