プレートテクトニクスの数理的基礎 — 剛体球面ブロックモデルによる地殻運動の記述
高校生向けのやさしい解説
地球の表面は十数枚の「プレート」に分かれて動いています。モーガンはこの動きを球面上の回転という数学で記述し、中央海嶺・海溝・断層という3種類の境界を統一的に説明する枠組みを確立しました。大西洋の拡大速度を実際の磁気縞模様のデータと照合して一致させることで、プレートテクトニクス理論を数学的に検証した歴史的な論文です。
概要
W. Jason Morgan (1968) は、Wilson (1965) のトランスフォーム断層概念を球面幾何学に拡張し、地球表面を約20の剛体ブロック(crustal blocks)に分割するモデルを提示した。各ブロック間の相対運動は球面上の回転として記述され、3つのパラメータ(回転極の緯度・経度、角速度の大きさ)で完全に規定される。この枠組みにより、海嶺(rise)での拡大、海溝(trench)での沈み込み、トランスフォーム断層での横ずれという3種の境界タイプが統一的に説明される。
書誌情報
- 著者: Morgan, W. Jason
- タイトル: Rises, Trenches, Great Faults, and Crustal Blocks
- 雑誌: Journal of Geophysical Research, 73(6), 1959-1982
- 出版年: 1968年
- DOI: 10.1029/JB073i006p01959
- 所属: Department of Geology, Princeton University; Woods Hole Oceanographic Institution
主要主張
剛体ブロックモデルの基本原理
地球表面を約20の剛体ブロック(crustal block)に分割する。ブロック内部では伸張・褶曲・歪みが生じないと仮定する。球面上の2つの剛体ブロックの相対運動は、ある軸まわりの回転として記述できる(オイラーの回転定理)。この回転は角速度ベクトルで表現され、回転極(pole of relative rotation)の位置と角速度の大きさという3パラメータで完全に規定される。
3種の境界タイプ
| 境界タイプ | 地形 | 運動 |
|---|---|---|
| 海嶺(Rise) | 中央海嶺 | 新しい地殻が形成される発散境界 |
| 海溝(Trench) | 海溝・褶曲山脈 | 地殻が沈み込む・消費される収束境界 |
| 断層(Great Fault) | トランスフォーム断層 | 地殻の生成も消滅もない保存境界 |
回転極の決定法
トランスフォーム断層の走向は相対運動の方向に平行でなければならない。したがって断層に垂直な大円(great circle perpendicular)は全て回転極を通過する。複数の断層から大円を描き、その交点として回転極を求める。
アフリカ-南米ブロックの検証
大西洋中央海嶺のトランスフォーム断層の走向から回転極を 58N, 36W と推定。この極を用いて計算した拡大速度(赤道付近で最大 1.8 cm/yr の半速度)は、磁気異常縞模様から独立に決定した拡大速度と良好に一致した。
太平洋-北米ブロックの検証
Fairweather-Queen Charlotte 断層帯、北カリフォルニア、南カリフォルニア、カリフォルニア湾の各地域のトランスフォーム断層から回転極を 53N, 53W と推定。サンアンドレアス断層沿いの運動速度 6 cm/yr と整合する。Juan de Fuca ブロックは太平洋・北米とは独立に運動する小ブロックとして扱う。
太平洋-南極ブロック
回転極 71S, 118E、赤道半速度 5.7 cm/yr。フラクチャーゾーンの走向と拡大速度の両方から極位置を独立に検証。
方法論
- 断層走向データの収集: 海底地形・地震メカニズム解・磁気異常縞模様のオフセットから断層の走向を決定
- 大円の作図: 各断層に垂直な大円を描き、交点として回転極を推定
- 拡大速度の計算: 回転極の位置から、海嶺の各点での拡大速度を予測(速度は回転極からの角距離のsin関数)
- 磁気異常との照合: Vine-Matthews 仮説に基づく磁気異常縞模様の間隔から独立に拡大速度を決定し、モデル予測と比較
論争・限界
- ブロックの剛体性仮定は近似であり、大陸内部の変形(Nevada-Utah 地震帯、Cameroon trend等)を無視している
- 圧縮型境界の位置決定が最も困難(Tonga-New Zealand-Macquarie 系等)
- 南北アメリカを単一ブロックとして扱ったが、カリブ海領域に「ヒンジ」が存在する可能性を示唆
- 中国・シベリア・中央アジアの境界は非常に不確実
学術的影響
本論文は、Le Pichon (1968) の6プレートモデル、McKenzie & Parker (1967) の太平洋プレート解析と並び、プレートテクトニクス理論の数理的基礎を確立した3大論文の一つ。特に、球面幾何学を用いた回転極決定法は現在も測地学・テクトニクスの標準手法である。
被引用数は数千件に及び、地球科学における20世紀最重要論文の一つに数えられる。