対称性の破れとゲージボソンの質量

高校生向けのやさしい解説

「なぜ素粒子に重さがあるのか」——これは20世紀物理学の大きな謎でした。Higgs は、宇宙全体にヒッグス場と呼ばれる「場」が満ちていて、粒子がその場の中を進む際に受ける抵抗が質量として現れると提唱しました。空っぽに見える空間が実は何かで満ちていて、その存在が粒子の重さを生み出すという発想です。2012年に実験で確認され、Higgs は2013年のノーベル物理学賞を受賞しました。

概要

Peter Higgs が1964年に Physical Review Letters に発表した2ページの短い論文。「ゴールドストーン定理の失敗条件」——内部 Lie 群の対称性が自発的に破れるローレンツ共変な場の理論において、保存カレントがゲージ場に結合している場合、ゼロ質量粒子は現れない——を示し、その結果としてスピン1のゲージ場の量子が質量を獲得することを予測した。この機構は「ヒッグス機構」として知られ、2012年に LHC で発見されたヒッグスボソンの理論的基盤となった。論文はスカラー場と U(1) ゲージ場の最小モデルを用いて、自発的対称性の破れによる質量生成を具体的に示す。

主要概念

ゴールドストーン定理とその回避

Goldstone の定理は、連続的な内部対称性が自発的に破れると質量ゼロのスカラー粒子(ゴールドストーンボソン)が必ず出現することを述べる。Higgs はこの定理が局所(ゲージ)対称性の場合には適用されないことを示した。

自発的対称性の破れ

真空状態(基底状態)がラグランジアンの対称性を持たない状況。スカラーポテンシャルが「メキシコハット型」の形状を持つとき、最小値が唯一点でなく連続的な円を形成し、真空が特定の向きを選択することで対称性が破れる。

ヒッグス機構

局所ゲージ対称性が自発的に破れると、ゴールドストーンボソンがゲージボソンの縦モードに「吸収」され、ゲージボソンが質量を獲得する。元々3つの自由度(横2+縦1)の場合、質量ゼロのゲージボソン(横2)と質量ゼロのスカラーから、質量を持つゲージボソン(横2+縦1)と質量を持つスカラー(ヒッグスボソン)へと変化する。

超伝導との類比

Anderson が指摘したプラズモン機構(中性超伝導フェルミガスのスカラーゼロ質量励起が、荷電されると有限質量の縦プラズモンモードになる現象)の相対論的類比として本論文を位置づけている。

質量の起源

素粒子の質量が「あらかじめ与えられたもの」ではなく、真空との相互作用から動的に生じるという描像を確立する。ヒッグス場が全空間に満ちており、粒子がその場と相互作用する強さが質量となる。

書誌情報

  • 著者: Peter W. Higgs
  • 年: 1964
  • 出典: Physical Review Letters, Vol. 13, No. 16, pp. 508–509
  • access_status: raw-confirmed
  • DOI: 10.1103/PhysRevLett.13.508