情動伝染
はじめに
3.11の災害復興の現場で、私は高負荷な状況にいる人々に囲まれながら、不思議な体験をしました。周囲の混沌としたエネルギーに飲み込まれるような感覚で、めまいやふらつきを覚えました。それはまるで、他人のパンドラの箱を無意識に開けてしまったかのようでした。
特に印象的だったのは、自分の思考とは全く異なる感情が湧き上がってくる瞬間です。それらの感情は、まるで他人から流れ込んでくるかのように自然に侵入してきました。この現象に圧倒されながらも、その正体を知りたいという思いが芽生えました。
この頃、神経生理学の分野で行われたプレーリーハタネズミにおけるオキシトシンの研究や、ミラーニューロンの存在に関する発見について知る機会がありました。また、フロイト、クライン、ユングをはじめとする精神分析の理論(防衛機制や転移・逆転移など)にも触れることで、私にとって大きな転換点となりました。
参考:【Oxytocin - Wikipedia】
参考:【精神分析学 - Wikipedia】
この体験を振り返る中で、私は「情動伝染」という言葉にたどり着きました。これは、他人の感情が自分に自然と伝わることです。さらに、「自己境界が曖昧(自他未分離)」な状態と合わせて引き起こす心理現象が「共感」や「価値判断」など、プロジェクトにおいて重要なポイントと考えるようになりました。
情動伝染とは
情動伝染とは、ある人の感情が自然に、そして多くの場合で意識の外で別の人に伝染する現象を指します。これは、コミュニケーションの最初の入り口ともいえる重要なプロセスです。
この現象は、まるで呼吸をしているかのように、自覚がないまま感情が広がるものです。たとえるなら、気温が体温に影響を与えるように、他人の感情が私たちの心に変化をもたらします。五感で物質世界を認知するように、私たちはなにかを通じて心理世界を受け取ります。
この過程は「投影性同一視」とも共通点があります。投影性同一視では、特定の感情や内面の一部が他者に押し付けられ、それを受け取る側が自分のものとして感じます。
参考:【Emotional contagion - Wikipedia】
参考:【投影性同一視 - Wikipedia】
重要なのは、「情動伝染」という言葉の厳密な定義そのものではありません。まずは、感情のやり取りが実際に起きていることに気づくことが大切です。 そして、多軸的な視点を持ちながら経験の微妙な違いを蓄積し、それを意思決定や価値判断に活用できるようにすることが重要です。